2019年11月28日 初稿
先日、洋なし(ラフランス)を購入後に8日間部屋で熟成させてみました。
ところが、一部がぐちゃぐちゃのゼリー状に傷んでしまっていて失敗しました。
一方で白いところ、特に皮に近い外側の部分は柔らかくてまあまあ甘く、不十分ではありましたが熟成がうまく進んでいました。
この、「傷んだところ」「熟成したところ」の違いは何なんだろう?植物の組織、微生物の働き、化学的な反応からみるとどんなことが起こっていて、そのきっかけは何なんだろう?と思い、自分で理解できるところまで調べてみました。
1.基本的な用語の理解
まずは、きっと関係してくるだろう発酵、腐敗、熟成について調べてみます。
1-1 発酵と腐敗
多分、上の写真の洋梨では、傷んでぐちゃぐちゃになっているところは「腐っている」という状況に近いと思いました(食べた結果、大丈夫でしたが)。
腐ること、については発酵と関係していることは知っていましたので、まずはここからです。
発酵も腐敗もどちらも同じことで、微生物の働きによって食べ物などの物質が変化することをいいます。
人間にとって都合がよい(有益な)ものは発酵。都合が悪いものは腐敗です。
なので、
- ヨーグルトができることは、人間にとって食べ物ができて有益なので発酵。
- 納豆が納豆菌によって人間の食べ物になることは発酵。
- 肉や魚が、どんどん臭くなって食べられなくなっていくのは、人間にとって都合が悪いので腐敗。
- 夏の暑い日、作ったカレーを1日放っておくと、臭くなってネバネバし、食べられなくなるのは腐敗。
など言えると思います。微生物は、自分のために活動しているのに、人間様の都合でいいもの(発酵)や、わるもの(腐敗)あつかいされて、いい迷惑ですね。
ちなみに夜に作ったカレーが翌朝美味しくなっているのはどういうことなのか。
腐敗でもないし、発酵しているか、というと多分違いますよね。「熟成させた」とか「寝かせた」と言うと思いますが、この場合はジャガイモがカレールーに溶け込んでコクが出たり、具材に味が染み込んで美味しくなる、といったことが原因だと思いますので、発酵でもありません。
1-2 熟成
発酵と腐敗は、微生物による影響だということは分かりました。
では熟成とはなんでしょうか、最近よく耳にするのは「熟成肉」です。
この熟成とは、どういうことなのでしょうか。
1つのキーワードは「酵素」です。
酵素というのは微生物ではありません。生き物ではありません。たんぱく質でできています。
ごはんをひたすら噛み続けると、だんだん甘くなります。これはごはんのデンプンが唾液に含まれるアミラーゼという酵素によって分解されて糖分に変わるからです。
熟成には、酵素による化学反応で物質が分解されることが関わっている、と考えるとよいと思います。
熟成の例1:熟成肉
熟成肉には、ずばり酵素が関わってきます。熟成させることで、たんぱく質を分解してくれる酵素(肉の中にもともと存在する)がじわじわと働いて、たんぱく質をアミノ酸やペプチドに分解してくれることで、人間が美味しく感じるアミノ酸が増えていきます。これが熟成肉が美味しいといわれる大きな理由です(ほかにも理由はありますがここでは省きます)。
(ペプチドについて補足ですが、一般的にはアミノ酸が2個以上結合してものをペプチド、50個以上結合するとたんぱく質と呼びます。10個のアミノ酸が結合したたんぱく質という例外もあります。)
かといって、熟成肉に微生物が関わらないのかというと、ヨーグルトを使って肉を熟成させる手法もあります。
なので熟成に微生物が絶対に関わらない、というわけではないと考えたほうがよいと思います。
熟成の例2:味噌(みそ)
お味噌ですが、大豆を発酵させて作ることから、発酵食品とばかり思っていましたが、発酵・熟成食品というのが正しいことが分かりました。
味噌を作る過程では、発酵過程と熟成過程という2つのプロセスがあります。
味噌の原料は大豆だけではなく、米や麦も使いますが、まず米や麦に米麹(こうじ)や麦麹といった麹菌(微生物)を使って発酵させ、そのあと熟成させるという2段階のプロセスがあるといいます。
発酵過程では、麹菌(微生物)が働きます。米や麦によって麹菌(コウジカビ)が増え、以下の三大酵素を分泌します。
・アミラーゼ
・プロテアーゼ
・リパーゼ
熟成過程では、 麹菌が分泌した酵素により熟成が進みます。
・酵素(アミラーゼ)がデンプンを分解して、甘い糖分(グルコース)を生み出します
・酵素(プロテアーゼ)がたんぱく質を分解して、うま味のあるアミノ酸を生み出します
・酵素(リパーゼ)が脂肪を分解して、脂肪酸(遊離リノール酸)とグリセリンを生み出します
(遊離リノール酸にはメラニン合成抑制の可能性も指摘されている)
・さらに、生み出された糖分(グルコース)を耐塩性酵母がアルコール発酵してエタノール(香り)を生み出します
つまり、味噌の製造工程では発酵と熟成の両方があり、熟成では酵素が関わっているけれども、その酵素ができるための前段階では発酵が必要になることから、熟成にも微生物が関わっているという言い方もできると思います。
結論:熟成と発酵・腐敗との違いは
ということで、熟成と前述の発酵・腐敗との違いについてですが、
・発酵や腐敗は微生物の活動によって進む
・熟成は酵素によって進む
・ただし、熟成を進めてくれる酵素は、微生物の発酵によって生み出されることもある
ということだと理解しました。
2.果物が「傷む」ってどういうこと?
では、今回の本題である洋なしという果物が「傷む」というのは、どういうことをいうのでしょうか。
ちなみに、ここでの「傷む」とは、下の写真のように一部が表面から内部まで変色して、ゼリー状のグチャグチャになっていることを指します。
今回の洋なしが「傷む」のは、
微生物によって腐敗が進んでいるのか、
もしくは酵素によって熟成が進んでいるのか、
どちらかだと思いますが、なんとなく植物の細胞壁が酵素で分解されていくようなイメージがぼんやりとあります。
今年の夏、別に梨(幸水)を1箱(36個入)100円で買いました。八百屋さんが「もう傷んでるから100円でいいよ!」と(笑)。
この梨も、洋なしと同じ原因で傷むのだと思いながら、検索してみました。
すると出てきたのが、
「和梨と洋梨は違う」「和梨は洋梨と違って追熟しない」
という内容でした。
洋なしでは、ペクチンによって熟成を進ませる「追熟」がある
追熟(ついじゅく)?
どうやら、洋なしでは追熟、つまり購入後に追って熟成させるという過程(プロセス)があるようです。
つまり、熟成(酵素が影響する)は存在するようです。
さらに下のような文章を見つけました。
液体に溶けない食物繊維の一種であるペクチンも、熟成させるにしたがって洋梨の水分に溶けだす水溶性のペクチンに変化していき果肉にとろみがつきます。これまでを追熟というのですが、洋梨のあのとろりとした食感と甘さはこうして追熟をすることで生まれるのです。
洋梨の旬の季節は?洋梨の食べ頃や保存の仕方 より
「食物繊維の一種であるペクチン」が、「水溶性のペクチンに変化していき果肉にとろみ」がついてくるということで、ペクチンというキーワードが出てきました。
ペクチン (Pectin) とは、植物の細胞壁や中葉に含まれる複合多糖類で、ガラクツロン酸 (Galacturonic acid)が α-1,4-結合したポリガラクツロン酸が主成分である。
Wikipediaのペクチンより
上のWikipedia、後半は難しくてよくわかりませんが、植物の細胞壁などに含まれる多糖類だとあります。
その他、いろいろ調べたところ、
・ペクチンは多糖類である。(デンプン、セルロースなども多糖類)
・ペクチンは植物の細胞壁や中葉に含まれる。
・ペクチンには2種類(水溶性と不溶性)ある。
・ペクチンは食物繊維の1つであり、水溶性食物繊維(熟した果物に含まれる)と不溶性食物繊維(未熟な果物に含まれる)の両方に含まれる。
・ペクチンはゲル化剤であり、セルロースなどと合わさって植物の細胞を繋げる役割を果たす。
・ペクチンは食品添加物としてとろみなどをつけることに使われる。(ジャムの用途ですね)
などあります。
これらからは、
まだ熟していないときに存在するペクチンは不溶性で細胞壁などの形状を維持することに役立っていて、
熟してくるとペクチンが水溶性になり果肉にとろみがついてくる。
ということが分かりました。
こうなると、ペクチンが不溶性から水溶性に変化する原因も知りたくなり「ペクチン 水溶性 酵素」で検索すると、以下のページが見つかりました。
トマトや果実が成熟すると軟らかくなるのはペクチンが分解酵素ペクチナーゼ(ポリガラクツロナーゼ)によって分解されるからである。
コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ)の解説 より
つまり、ペクチナーゼ(Pectinase)という酵素が、不溶性のペクチンを水溶性のペクチンに分解しているということですので、
酵素が働く熟成によって、洋なしの表面はどんどん柔らかく溶けていくのだ、と分かりました。
でも、一部がゼリー状になった理由が説明できません。
結局、洋なしの一部がゼリー状になった理由は?
いろいろ調べたのですが、結局、洋なしの一部がどんどん傷んでゼリー状になっていくた理由を説明してくれるサイトが見つかりませんでした・・・なので、ここからは一部想像です。
1.洋なしの表面近くでは、ペクチンが酵素ペクチナーゼによって不溶性から水溶性に変わり、追熟がすすんでいく。
2.追熟が進む中で、ペクチンだけでなく、果肉に含まれるデンプンが糖分に分解され、果糖やブドウ糖に分解される。
3.なんらかの微生物が、豊富な糖分を栄養源として大量に発生し始める。そのきっかけは傷など、表面の一部から始まると考える。
4.酵素ペクチナーゼによる追熟で植物組織は柔らかく変化しており、微生物の果肉内部への侵入を容易にさせてしまう。
5.微生物がどんどん果肉内部まで侵入し、傷みがどんどん進む。
こう考えてみたのですが、それが正しければゼリー状のグチャグチャになったところは、微生物が大量発生していることになります。私はそのままゼリー状のグチャグチャを食べてしまいました・・・
ただし、特に腐ったような臭いはありませんでしたし、私もお腹を壊さなかったので、この想像は間違っているかもしれません。
もう少し調べたり、人に聞いたりして事実が分かれば、このエントリーも更新したいと思います。
参考サイト
- どうして果実は腐ると茶色になるの?(日本植物生理学会)
- 【食品ロス削減】野菜や果物が傷む・腐る主な原因と長持ちさせる為の保存方法
- 発酵マイスターに聞く!知って得する発酵豆知識 発酵と腐敗・熟成の違いって何?(マルコメ味噌)
- 熟成肉とは(格之進)
- 果物が腐る(傷む)理由・対処法
- 「果物が傷む」は英語で何ていうの?
- 洋梨の旬の季節は?洋梨の食べ頃や保存の仕方
- ゲル化剤や安定剤として使われるペクチン…その効果や危険性は?
- ペクチンのゲル化について[やさしい製菓理論]
初稿:2019年11月28日